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第2曲 裸苗に寄せて
サーディの薔薇 今朝、あなたに薔薇をお届けしようと思い立ちました。 けれども結んだ帯に、摘んだ花をあまりたくさん挟んだため、 結び目は張り詰め、もう支え切れなくなりました。 結び目ははじけました。薔薇は風に舞い散り、 一つ残らず、海に向かって飛び去りました。 潮のままに運ばれて、はや二度とは帰っては参りません。 波は花々で赤く、燃え立つように見えました。 今宵もまだ、私の服はその薔薇の香りに満ちています・・・・ 吸って下さい、私の身から、その花々の芳しいなごりを。 (入沢康夫氏訳) |
2000年12月5日雨降りの午後、5本のバラ苗が届きました。 頼んでから、思い出したり、忘れたり、5本も!と思ったり、5本しか!と思ったり・・・の半年でした。 去年初めて、裸苗と言う物にお目にかかりました。 話に聞いていたけれど、ゴボウの根にさっぱりした細い茎が数本。 これが・・・、馥郁たる香りのあの薔薇か!思わず絶句したものでした。 絶句はやがて声無き嗚咽に。届いた3本のうち2本まで枯らしたのですから。 (下写真は1本生き残ったグラミス・キャッスル) 色々考えて、薔薇先輩の話を聞いて、今年は庭の一等地へ、地植えする事にしました。 ここはそれぞれ、石畳の下だったり、壺があったり、長く「開かずの間」でした。 それが、窮屈な敷地に身を寄せる草花たちに妬まれそうな、薔薇の御座所になりました。 バラ苗達の到着後、時ならぬ宵の雨は、いつしか真綿の布団になりました。(写真上) 5本の苗は、「ヘリテージ」「コンスタンス・スプライ」「メイデンズ・ブラッシュ」 「マダム・アルフレッド・キャリエール」「ゼフィリーヌ・ドゥルーアン」です。 |
裸苗たちに寄せたのは、フランスの詩人デボルド‐ヴァルモールの詩、『遺稿詩集』からの一篇です。 生涯苦労の絶えなかったこの詩人が、辛い暮らしに耐えつつ、ひたすら詩作に打ち込んだように、 私も庭では、浮世の苦労を忘れて夢見るのです。 この苗たちが、庭に波打つ香りの花を咲かせる日を、夢見ます。 |
ところで「サーディの薔薇」のサーディとは、イラン中南部の町シーラーズに生まれた13世紀の思想家、詩人です。彼の著した『薔薇園』は、ヨーロッパ人に昔から東洋の知恵の書として、訳され研究されていました。『薔薇園』は、序文と8章の本文からなり、彼の30年間に渡る放浪の旅での経験と、そこで得た逸話が、韻文を織り交ぜて語られます。サーディが友人に向かって、薔薇園という名の書物を著すことを述べる序文は、ことに名文と評されています。 |