11月の事です。 「ほんとに、好きなのかなぁ・・。淳子さんの好みかしら・・・。」しばらく黙って見ていた彼女が、遠慮がちに小声で。 私は興奮していました。始めて実物を見たのですから。本やHPの写真では知っていました。誰もが心奪われる美しい薔薇、賞賛と憧れの言葉を、常に従えて咲く花です。花びらの重なるぽってりと柔らかな形、外側は白く中心に向かうほどピンクが濃くなる色合い、一目で、ピエール・ド・ロンサールだ!とわかりました。 その花は、白いポリジと一緒に、飾られていました。暗い部屋の隅、美女がほほえんで佇むような姿です。花瓶の花に釘付けになった私は、うわ言のように「やっぱり、これ欲しい。」を繰り返していました。 「そうね、綺麗ね、素敵よね。」かたわらで見ていた、にこやかな彼女の表情が、私の興奮と反比例して曇っていったのにさえ、気がつかなかったのです。とうとう私が、庭のどこに植えようかしら、と思いを巡らせ始めると、彼女は静かに、待ったをかけました。 とても意外でした。この美しい花のどこがいけないのかしら。長野では、やはりこうして秋にも咲くのだ、バラ好きの友人たちがみんな、羨ましがるに違いないのに。 「切花でここにいるのは、いいけれどね・・・。」我が家からそう遠くない、北信の庭から摘んできたピエールを見つめて、彼女は続けました。「確かに手っ取り早く庭が豪華にはなるわよ、でも、物凄く元気、あなたの庭には元気すぎないかしら・・・。」 一度、うちに来た事のある彼女は、たった一度だからこそ的確に、私の庭の特徴を捉え、心に刻み付けたのでしょう。ことある度に、控えめな優しい庭だ、微妙なニュアンスがすてきだと誉めてくれました。同じようにここで、ヘリテージをフレンチレースを私が欲しがると、いよいよバラね、と笑いながら、色々とバラに詳しい人を、教えてくれたりしました。ところが、今度はどうしたわけでしょう。
私がピエールの美しさに目を眩ませているあいだ、彼女は冷静に、私の庭で、この薔薇が大きく茂った場面をイメージしていたのです。 少しがっかりして、そう?あわない?と呟くと、「一度これが、実際に庭で咲いているのを見て、それから決めても遅くないわよ。」と、なぐさめられました。素直に頷いて、でも、このとき、ふと不安がよぎりました。既に5本頼んだバラ苗の中には、ピエールに負けず劣らず、華やかに元気に咲く薔薇があるのじゃないか、と。 それから、ひと月たって、あなたも御存知の通り、5本の苗は届きました。考え抜いて、やはり庭の一等地に植えました。いっそう庭が素敵になるという期待、そして不安は複雑です。上手く育ってくれるかしら、育ち過ぎて他の草花が色褪せないかしら。 ともあれ有難い忠告でした。これがなければ、3年先に本当の姿を見せるという薔薇を待てず、どんどん植え込んだ事でしょう。そして控えめな草花たちを、完全に脇役に回していたでしょう。 来年は、少し我慢すると言う事を、目標に掲げよう、と思う年末です。12月29日 淳子 |