植物一覧へ

2000年5月前半日記

5月16日 火曜日
蕾のチャイブ今朝は遠慮なく言いたい、寒いよ〜。梅雨でもないのに梅雨寒だね、相棒はそう言ってまた思い出したように、大阪では梅雨は暑いものなのになあ、と。

昨日セミの声を聞いたのが嘘のよう。

ここから60キロ南に下ると、季節は早送りで初夏に。開け放した車の窓からはっきりセミの鳴き声が聞こえた。頬ずりしたい子猫の背中のようだった山が、いつのまにか精悍な獣の背中になっている。若葉に彩られ、その若葉に絡む山の貴婦人は紫の藤。今にもむっくりと起き出しそうな山にかかる霧は滝のしぶきを思わせる清々しさ。どれも初夏の風景。

しかし我家の周りはほんのちょっと足踏み。山にかかる霧は、霧というにはあまりにも重く、雲が雪崩になって山を襲っているようだし、菜の花とリンゴの木の後ろにそびえる山の頂上には白いものも見えるし。第一うちの庭には、数え切れない蕾たちが、寒そうにしているし。
5月12日 金曜日
カエルと花困った困った。庭に白い花が溢れてきた。ホワイトガーデンは庭の一画に予定しているが、これほどまで庭全体に白が幅を利かせると、肝心のポイントが生きないではないか・・・・。

500円の正札に目が眩み(?)買ってしまったミニチュアローズのグリーンアイス。枝がしなやかで、鉢植えにして楽しむべき所だろうが、例の手造りアーチに絡ませるには手ごろな大きさと地植えしちゃいました。(左写真カエルの左)

春先からずっと咲いているダブルプリムローズの白、手前の小花はネメシア・スノーストーム。カエルがシラケタ笑いをこらえる池のほとりです。

ざっと見渡すと、スノーフレーク、白花山吹、雲間草、あせび、ナルコユリ、セラスチューム、ドウダンツツジ、プルーン(写真右下・・・白ばかり。艶やかなシャクナゲやキングサリ、八重オダマキが早く咲いてくれないと・・・・。クリックすると実のなったプルーンへ

白は庭だけではありません。車を走らせると、どこからか山桜の花びらが吹雪になって舞っていました。やや風が強く、少し開けた車の窓から、引き裂く風の音とともに花びらも入ってきました。

街路樹の白いハナミズキに白いサツキ、一瞬雪に見えたような、白昼夢の五月晴れの空です。
5月10日 水曜日
忘れな草夕方6時半、まだ充分明るい庭に出ました。昼間20度を超える暑さを、はじめてくぐった花たちが萎れていないか、蕾に生気があるか、一通り見て回った後デジカメを覗きます。

庭のあちこちから芽の出たワスレナグサ(写真左)。去年は、このこぼれ種からのすてきな贈り物を知らずに抜いてしまい、ずいぶん悔しい思いをしたのです。

あるものはガウラの横に、あるものはホワイトガーデンの予定地に、或いは、たくましくレンガの隙間に、庭中自由奔放に遊び回ったらしい、小さな青い花が咲いています。

さてどの花をカメラに収めようか、どんなアングルにしようか、迷っているうちにワスレナグサの色は溶けて空ににじみ始めました。正直にガーデンライトが灯るとデジカメのプレビュー画面は輪郭を失い一足早い闇夜を映し出します。

それにしてもワスレナグサの憂鬱な青。いつもジメジメ湿った土を好むこの花が湖の岸辺にびっしり咲いていたのを思い出します。湖の青と暮れかかる空の青と花の青が、胸に切なく迫ったあの日、隣にいた人は・・・・今では丸々太って池のメダカを覗いています。
5月9日 火曜日
バイモ道草を子供達の独占にしておく手はない、こんな気持ちの良い昼下がりに。いつもと違う道が誘っている。実はずっと前から企んでいたのだが、根が真面目なので思い切れなかった。少しでも早く家に戻って、たまには台所のガスレンジでもピカピカに磨き上げるとか、冬物と夏物のタンスの入れ替えをするとか、2週間後に迫った伴奏の練習をするとか、普段なるべく見ない振りをしている面倒な事柄がなぜかこんな時に現れて、グルグル頭の中を回っている。でも、でも・・・・。

迷いに迷ってよしっと決めたのは、交差点の手前、ブレーキに足を乗せたとき。ウィンカーを出してハンドルを切れば家事の雑用も何も忘れる。どんな花があるかしら、珍しい苗があるかしら、ウィンカーの音に高鳴る心臓の音が重なるような、このワクワクした気分。道は本道を外れくねくねと曲がる。だんだん山に近づいて、右手に流れる川面がきらきら光って、風が冷たく爽やか。カーブ続きの道、スピードを上げれば小さな車は空に舞いそう、落ちついて落ちついて・・・。

左にそそり立つ崖は積み木崩しに積んだ岩が今にも落ちてきそう。気休めに張られた埃だらけのフェンスの足元には大小の石が散乱している、落石注意の標識、どう注意すればいいのかなぁ・・・・。車で通う事にした、いい近道も知っている。自慢して話すと、いつ崩れても不思議でないあの道を通るのだけはやめなさい、相棒にきつく言われた。「命令形で、ものを言わないで」いつもなら食って掛かる所、このときばかりは黙って頷いた。まあ、通りたくてもしょっちゅう工事のため通行止め、それほど危なっかしい道なのだが、だからこそ魅力的。

お目当ての苗屋さんもそんな山際ぎりぎりの所にある。ただしこちらは岩山ではなく青々とした木々が目の前に迫る。首が痛くなるほど仰がないと空が見えない、山から降るように聞こえてくる鳥の声、ウグイスも鳴いている。借景は文句なし。店内は?なるほどなるほど、こんなふうになっていたのか。いつか看板だけが目にとまってから、気になっていたのだ。まだできて一年程かな?

こちらの畑からも、お好きなものをどうぞ、と店の奥様らしい方に言われ店からつながる畑に。パンジーや宿根草がきちんと植えられている。特に珍しいものもないのでつい目は動くものへ。はっは〜ん。ご夫婦で経営か。中年の男性が苗箱を運び奥様が客の相手をしている。なんとなく商売ずれしていないおっとりとした物腰、日焼けを嫌って目深に被った麦藁帽子から覗く笑顔がなかなかの美形。この土地の人かなぁ。ほんとに夫婦かなぁ。兄妹じゃないだろう。脱サラかしら。なんでこんな辺鄙な所に・・・・。道ならぬ恋に駆け落ちしてきたとか。吉原から足抜けした花魁と大店(おおだな)の・・・・。あ、これは時代錯誤か。
「奥さん、いい苗ありましたか?」・・・・・急に声かけないでぇ・・・・びっくりしたぁ。(写真は我が家のバイモ)
5月8日 月曜日
イカリソウ10年も前に近くの山から頂いてきたイカリソウ(左写真)が今年も咲きました。同じような土質で、午後の日が当たらない場所に植えたのが良かったのか、元々強い植物なのか、増えもせず減りもせず株が葉で覆われる前に、大急ぎで花をつけ、あっという間に消えてしまいます。

日に日に緑の濃くなる庭に、咲くのはうつむき加減の花たち。ドウダンツツジ、スノーフレーク、バイモ、クリスマスローズ、アセビ。それらは産毛の光る柔らかい乙女の耳元で揺れる小さなイヤリング。

でも庭はもっと情熱的な、もっとはっきりした告白が聞きたいので、すぐにそんな可愛らしい装飾品は外してしまいます。
5月1日 月曜日
スリムなチューリップその後ろにプリムラが見えますか? ゴールデンウィークが幕を開けて急に賑やかになった田舎の道。遊びに行くのではないが、こちらまでつい浮き足立ってくる、あきらかにいつもと違う車の流れ。

山もこの季節を、この人々を待っていたかのよう。いままで我慢していたものがいっせいにほとばしって、それが若者の特権のようなアンバランスを生み、かえって魅力に思える。不規則に散らしたコブシの花の白、殴り書きの枝垂桜のピンク、パレットで色の混ざった新芽の緑。山全体が生き物のようにうねり、息づき、喜びに溢れかえっているのがわかる5月。冬中この5月を待ち焦がれ、憧れ、そしてなんとあっという間に過ぎ去ってしまうのか、美しい5月。

光の注ぐ雑木林には何が咲いているのかしら。スミレ?カタクリ?イカリソウ?枯葉の積み重なった柔らかい大地に横たわる艶やかな色。一つ一つの花は可憐だが群生して咲きほこるその一帯は、春の極上の衣装が脱ぎ捨ててあるよう。初めて見たときは、きっと天女の羽衣を見つけたらこんな気分だろうと。

だから、その花を持って帰りたくなる気分もよくわかる。そう、天女の羽衣を持ち帰ったお話しのように。でもあの話は悲しい結末ではなかったか。山に暮す植物達は仲間みんなで生きている。引き離された花は生まれ故郷から遥か遠い人里で泣いていないかしら。ほんの少し変わった環境に拗ねて、黙って消えていかないかしら。

そう言えば我家の周りにも以前はたくさん見つけたネジ花。針金ほどの茎にくるくると螺旋に咲きあがるピンクの小さな蘭の花。去年は一つも見つけられなかった。あれもほんの短い期間に現れる花、私に知られず咲いていたのだと思いたい。
植えて二年目でやっと咲いた原種のチューリップ、故郷はどこ?

1999年 12月日記 11月日記 10月日記 9月日記 8月日記 7月日記 6月日記 5月日記 4月日記 1〜3月日記

2000年 1月日記 2月前半 2月後半 3月日記 4月日記 5月後半 6月前半 6月後半 7月前半 7月後半 8月前半 8月後半 9月前半 9月後半 10月前半 10月後半 11月前半

日記目次へ

植物一覧へ