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2000年9月前半日記

9月14日 木曜日
寝室の窓から満月が美しく、匂うような夜風の優しさに、しばらくほおづえ突いて眺める。ベニチガヤとアサリナ

こんな柔らかに明るい夜空に遠慮してか、ガーデンライトは消えている。かすかな光に目が慣れてくると、木々の輪郭が浮かび上がり、やがて緑の濃淡も見えてきた。

黙って過ぎたが、庭に手を入れるようになって3回目の夏もおわった。金木犀もモミの木も生垣も大きくなった。お隣のコニファーも倍以上に伸びて、こんなになると手がつけられませんよと苦笑するお隣さんだが、素晴らしい借景を得て私は嬉しい。

こうして庭を眺めていたら、今炊いているプルーンが思い浮かんだ。はじめ、砂糖と実がよそよそしかったのに火を入れるごとにお互い溶け合って、紫色の砂糖の水にプカプカ幸せそうに浮かぶ実。粘りが出てくると、ぐっと嵩は減るが、凝縮された重量感やその濃い紫色に、蓋を開けるたび圧倒されるようになる。沸騰直前に火を消すという、なにか物足りないような毎回の行為の繰り返しと、それ以上に寝かせる時間がこの料理のポイント。そんなふうにこの庭も知らぬ間に煮詰まっているのかしら・・と食欲の秋らしい思考の展開に苦笑いした。
アサリナとビオラ
朝、庭に出ればまだまだ料理のしがいのある庭である事を確認して安心する。キングサリを抜いた後に堆肥とおいしい土を入れなければ。生ごみ生まれの土がどれほど植物を元気にするか、ひと月まえ、コンテナに植えたしょんぼりしていた植物は見違えるように花をつけて葉艶よく茂っている。華奢で可愛いと思ったアサリナもさすが蔓植物、ベニチガヤを足がかりにして、ハンギングから下がっている斑入りカキドウシをつたってルコウソウと張り合うつもりらしい。(右写真はベニチガヤに絡むアサリナ、左写真はその花)
9月7日 木曜日
ルコウソウ夏の間、ヨシズの屋根のパーゴラはテラスで涼むのに、まことに具合が良かった。我が家は洒落た外観を持たないので、オーニングは不釣合い、海の家みたいなのが粋で笑える。

それも店じまい。秋風が吹いてきたし、お日様もカンカンと照り付けない。勢いよく蔓を伸ばすルコウソウがハンギングに絡み飽き、ヨシズの屋根に這い登った。そろそろ潮時でしょう、ヨシズを取ればルコウソウの花もよく見えるだろう。

「ひざが痛いのに悪いわね。」一応社交辞令して「ルコウソウを痛めないでね。」すると、「今なら大丈夫」と答える。てっきり、今なら蔓を外すのもわけないよ、そう続くとばかり思っていた。コーヒーでも入れてあげようと、席を外したすきにヨシズはあっさり外され、千切れた蔓が無残に散らかっている。クレマチスとルコウソウの葉

ヒドイじゃないかと抗議すれば、「今なら大丈夫さ、まだ蔓は伸びるよ。」ときた。この薄情者め。

翌朝どんよりした白っぽい空をバックに白いルコウソウが咲く。パーゴラも白、これでは赤い花のほうが良かったな・・・・。勝手な事を思いながら外に出て驚いた。昨日千切られて、打ち捨てられた蔓に花がついている。葉はすっかり萎れているのに。(写真左上)

「茎を池に入れてあげたら?」小さな声に黙って頷いて、責めるのはやめておこうと思った。
(右写真はクレマチスと細いルコウソウの葉)
9月5日 火曜日
バラを待ちましょう秋の大苗が届くのはいつだろう、逆算して、植え場所の確保、土つくり・・・。冷静に指を折っていたはず。気がつくと、つるはしが硬い石にぶつかる音。どこからウワノソラ?足元には5つの石がころがる。

受話器を置いて振り向いて、その光景に息を詰める相棒。変革は突然。企てた張本人はごく自然の成り行きと安堵する。

駅に降りる道、車に轢かれたリスを見てしまった、悲しくてかわいそうで。帰りに同じ道を通ると、リスの姿はない、誰かが林の奥に葬ったか。

何もかも、待てないような気分がボンヤリ石畳を見つめる私を揺り動かしたか。カマキリの背がいつのまにか茶色になっている。待たずとも秋は進む。いつか、目の前を猛スピードで横切っていった小さなリスがいたっけ。
9月3日 日曜日
シュウカイドウ「今朝はめっきり秋めいているね。」そう言って起きてきた相棒にしゃにむに抱きついた。これは色気の問題ではなく、寒気の問題だ。昨日までとは明らかに違う朝の空気。剥き出しの腕は、しばらく外にいると芯から冷えてきた。ほこほこと暖かく肉付きのよい相棒の体は極上の湯たんぽと言うわけ。しばらく迷惑顔をさせたら、エネルギーを取り戻したウルトラウーマンは再び庭へ。

蝶の姿が減ってトンボが目に付くようになった。今朝は青空が目にまぶしい。風が冷たくなったぶん、太陽が優しく背中を包む。やっとクレマチスの蕾が開き始めた。でもギボウシはまだ。夏草は枯れて種をつけている。そろそろ種取しなければ。初夏に花柄摘みでうっかり折ってしまったイソトマをそのまま地面に挿しておいた。それが幾つも花を咲かせている。挿し芽した雲間草

夏に枯れる事の多い雲間草(写真右)は挿し芽をしておいたら、植木鉢のなかで少しずつ大きくなっていた。そろそろひとつずつ小さなポットに植え替えよう。春に友達からもらったシュウカイドウ(写真左)が朝日に輝いて咲いた。昼間には日当たりの悪いこの場所が彼女のお気に入り。

体は冷えても秋の園芸作業を思うとハートは暖かい。
9月1日 金曜日
メアリーローズとネメシア留守にする日、庭に咲いた小さなバラとワレモコウを切って花瓶に挿した。(写真右下)食卓の私の場所に飾って、「これをお母さんだと思って・・・」そう言いかけてやめた。そんな深刻な旅でもなし、すぐに戻るのだから。半ば冗談で言った言葉が不吉な呪文のように響く事もある。

写真で見るように確か3つ開いていたバラは、私が戻ると1つ増えている。このふつかで花瓶の中の蕾が開いたのか。ワレモコウもいっそう深いアズキ色になっている。

きっと咲いているだろうと思っていたギボウシ、真っ白な蕾を堅く閉ざして、香りもわからない。ワレモコウと一重のバラ

「白いルコウソウ、今朝もずいぶん咲いたのね。」「どれ、どの花?」相変わらず花の名前はちっとも覚える気がない相棒。花びらを丸めているもの、種になる準備に硬くなりかけたもの、10以上もあろうか手の届くところまでは取ったが。

白と言えば、一昨年種を撒いたまま忘れていたカンパニュラが今年になって1本だけニョキニョキ伸びた。種袋の絵は確かブルーだったが、咲いたのは白。ホワイトガーデンに白はなく、そこを嫌うように白い花が咲いている庭。

宿根ネメシアに寄り添うようにメアリーローズが咲いている。今朝開いたのだろう。これは切らないでおこう。散るまでこの場所で。(写真左上)

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